僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

依存症の小説

飲酒歴40年、断酒歴2年と3か月半、最近は本も読みます・不良初期高齢者、リスボン、59歳。

本日もリスボンの、書評ではありません・ノープラン・ブログ、ご訪問ありがとうございます。



以前にも書きましたが、
飲酒者の頃の僕の読書傾向は、
かなりひねくれていました。

まずメディアが取り上げるような話題の本を購入して読むことはありませんでした。

新聞の書評で気になった本も、
タイトルや出版社はメモを取りますが、実際に購入したことはほとんどありません。

しかし断酒ライフに入門して、
これまで手にしなかったような本も読むようになってきました。

まず何といっても、
酒代わりのナイトキャップとして文庫本サイズの本が枕元の必需品になりました。


そして一番大きな変化は、
かつては意図して遠ざけていたエンターテイメント系の小説を読むようになったことでしょう。


僕はどうしても仕事の関係で、
何に対してもアート系を求めてしまう傾向があり、
その観点からは、エンタメ小説は受け入れにくかったのですが、

最近は娯楽性も素直に楽しめるようになりましたし、
そしてさらには、
娯楽性を十二分に発揮して読者をぐいぐいと引き込んでいく作家の筆力にも興味が湧いてきました。


今さらですが、
やっぱ、もちは餅屋ですねぇ。
テクニックのある作者の語り口は面白い。

カバーにコミック風のイラストをあしらったいかにもエンタメ性丸出しの文庫本あたりは、
かつては見向きもしなかったんですが、

この頃、手に取るようになってます。


そして今朝、
塔山郁の「ターニング・ポイント」というミステリー?を読み終わりましたが、
なかなかよくできており(スンマセン、意味もなく上から目線で)、
最後の三分の一くらいは、一気読みをしてしまいました。

パチンコ屋で知り合った3人が、
盗みを働く物語です。

感心させられたのは、
この3人ともギャンブル依存症を患っており、
パチンコで人生を棒に振ってしまった、あるいは棒に振りつつある、
どうしようもない連中なのですが、

そのどうしようもない連中の依存症ゆえの行動や行動の心理が実にうまく描かれていた点です。

僕は幸いにもパチンコ依存には陥りませんでしたが、
でもアルコール依存症の経験からギャンブル依存症当事者の心理は十分に想像できます。

特に精神的に最悪な状態に置かれている時に、
絶対にダメだと分かっていながら依存対象に向かってしまう、
依存者の思考回路は、

ほとんどの真実を知らされ、奈落の底に突き落とされた主人公が、
それでもパチンコ台の前に座って一万円札を台間サンドに投入していく場面で見事に描写されています。

この作品は純粋な娯楽作品ですが、
しかし依存症経験者、当事者でなければ理解できないであろう、あの恐怖がテキスト化されています。

読後感としては決して気持ちよくはありませんが、
いかに依存症の患者が惨めな連中かを思い知らされることにもなります。


この作品が経験者、当事者でない読者にとってどんな意味をもちえるのかは、わかりません。

しかし僕にとっては、
たまたま図書館で目先を変えてみようと思って借りた一冊でしたが、
拾い物のような一冊になりました。


この作品で描かれているヴァンパイヤ心理の惨めさを再び蘇らせてはなりません。
ですのでいつものように。

皆さんも僕も、今日も明日も、厚かましくも謙虚にかつご機嫌さんで
LWoA Life Without Alcohol 断酒ライフ、継続していきましょう。