僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

己を知るという難事業

飲酒歴40年、断酒歴5年と7カ月、不良初期高齢者、リスボン、レベル62。

本日もリスボンの、弱い生き物・ノープランブログ、ご訪問ありがとうございます。

 

これから書くことは、全て事実です。

ただし、具体的な情報等はほとんど伏せます。

 

入水自殺を図った老人が、通りかかった目撃者によって一命をとりとめました。

気を失っていた老人は救急搬送された病院で検査を受け、

当面の生命の危険はないと判断され、

帰宅することになりました。

ただし、精神的には若干の混乱が残っているようであり、

意識を取り戻してから看護師に対して、

繰り返しある薬品の処方の必要性を訴え続けました。

 

彼が執拗なまでに要求した薬品とは、

レンドルミンという、いわゆる睡眠導入剤

眠剤というやつです。

 

看護師さんに薬品の処方を決定する権能はありません。

従って帰宅する際にレンドルミンは処方されませんでしたが、

老人は迎えに来た息子に向かって、救急外来の受付の前で、

なぜレンドルミンが処方されないのか、訴え続けました。

 

息子は、自分が説明しても老人は納得しないであろうと考え、

専門家による説明を依頼しました。

看護師長がやってきて、眠剤の処方には上限があり、

すでに老人はその上限までの処方を受けているため、

これ以上の処方は無理であることを説明しました。

 

専門家の説明を聞いた老人は、納得できていない様子で、でしぶしぶ引き下がりました。

 

先程、具体的な情報は伏せますと書きましたが、

ここで明かします。

自殺を図った老人は僕の親父であり、迎えに来た息子は僕です。

 

この頃の親父にとっては、必要な眠剤を確保できているかどうかは、

何よりも重要な、それこそ、命がけの関心事のようです。

まるで、飲酒者であった時の、僕たち、アルコール使用障害者にとって、

自宅に十分な酒があるかどうかが極めて重要事項であるのと同じように。

 

つまり現在の親父は、レンドルミンに対する、精神的な依存状態の中にあるようです。

一昨日も、医者に連れて行ってほしいというので、少し具合が悪いのかと思って駆けつけてみると、

レンドルミンを処方してくださる先生の所に連れて行けということで、

腹立たしいほど、心身ともに元気でした。

 

腹の立った僕は、

眠らなくとも人間は死にはしない、そのうち眠れると親父を詰りました。

 

もちろんこの時の僕は、

同じ非難がかつての僕に対しても成立することを自覚できていました。

 

とても恐ろしいことですが、

やはり使用障害当事者は、発作の発症時に依存状態に隷属する状態にあり、

人間としてのあり得る判断力は失っているということでしょう。

 

親父は僕の記憶している限り、

20年以上、レンドルミンを服用しています。

おそらく、精神的な依存状態が形成されるためには、十分な時間だと思います。

人のふり見て我が振りなおせ、

言うはたやすいのですが、

やはり簡単なことではないのでしょう。

 

己を知る、とても大切なことですが、

同時に極めて困難なことでもあります。

僕たちは、常に己の精神疾患と向き合い続けなければなりません。

精神疾患とともに暮らしていることを恥じる必要はありませんが、

しかしそのことの意味については、常に問い続けなければならないでしょう。

不断の問いを続けることで、前向きの生活も保障されるのです。

 

皆さんも僕も、今日も明日も、厚かましくも謙虚にかつご機嫌さんで、

LWoA Life Without Alcohol 断酒ライフ、継続していきましょう。