僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

味覚と飲酒

まだ暑さのトラップは続くでしょう。
でも、1日の最高気温のグラフは、確実に右下がりに変わってきています、秋がやってきています。
秋は大好き、でも秋は気がかり、アル症と肝硬変、二人の悪友と元気に3人4脚、リスボン、57歳。

本日も、リスボンの、ノープラン・わがまま・気まぐれ・ブログ、ご訪問、ありがとうございます。

僕は11月生まれということもあり、秋は大好きです。
芸術に関する研究に従事していることもあり、秋は大好きなだけではなく、とても大事なシーズンです。

しかし、断酒者となって初めての秋を迎える今年、試練の秋になるかも。

(もちろん、僕たちアル症者は、常に試練にさらされていますが。)

芸術の秋は、食欲の秋でもあります。
食欲の秋、というよりも、味覚に贅を凝らしてよい季節、といったほうがいいかもしれません。

おおっぴらに、あれがうまいだ、これが美味だと、御託を並べても、怒られない季節です。

何が美味だ、どうだという話は、さしあたって問題ではありません。
しかし僕たちの文化においては、食と飲酒が分かち難く結びついているのです。
それも、ハイ・カルチャーの文脈の中で、この料理にはこの酒、ってなことを、いい大人が偉そうに能書きを垂れるわけです。

僕もかつては、能書き垂れ垂れの嫌な奴でした。
この能書きのボキャブラリーが多い人のことを、食通と言うらしいです。

で、断酒者となった今、それらの能書きがホンマに当たっていたのかどうか、ちょっと考えてみましょう。


和食に日本酒。

例として、刺身と辛口の冷酒。

日本酒は美味いのか。

子どものような素朴で素直な感覚を前面に出しましょう。
そうすると、お酒、くさ~い、となります。

辛口の日本酒は、特に吟醸大吟醸のお酒は、この嫌な臭いが若干、抑えられています。
つまり、酒がうまい、とは、嫌な臭いがしない、という意味であったかも。

刺身を口にしましょう。
ねっとりとした口当たりと、適度な油脂成分が口内に広がります。
そしてその油脂成分は、少しばかりしつこいので、醤油やワサビとともに賞味します。

醤油の辛さとワサビの辛さ、香り、そして油脂成分のねっとり感、それぞれの味わいは異なりますが、
ある種の異物感であること、あるいは刺激感であることは間違いありません。
そしてその異物感を洗い流すためには、辛口の冷酒のもっている、サッパリ感とコクの同居という性質がバッチリなんですね。

僕はほとんど縁がないのですが、フランス料理とワインの関係についても考えてみましょう。

フランス料理は、和食とは異なり、乳成分由来の油脂と食肉由来の油脂が味の決め手になります。
そしてそれらの油脂のコクを際立たせるために、香辛料が活用されます。
ここでも味の主役は油脂成分という異物感であり、それを引き立たたせる刺激感として香辛料が生きています。
そして、ワインの酸味とコクの同居が、これらの異物感や刺激感を流してくれるんですね。

焼肉とビール、BBQとビールの関係も、似たようなものでしょう。
焼肉では、肉の油脂成分をそれこそストレートに味わうので、洗浄成分としての酒にも、炭酸のような発泡性が重要になるのです。
そしてビールだけではありませんが、特にビールにおいて顕著なのが、脱水作用が働くことによって、さらなる食欲、さらなる飲欲を掻き立てるのです。

このように考えてみると、食事における酒の役割の一端は、
特定の味覚によって満たされた口内をリセットすることにあったのですね。

つまり酒は、味を引き立てていたのではなく、次の味覚を呼び込むためのリセット剤だったのです。

より多く食べ、より多く飲む、つまり、より酩酊状態に近づくために、食べ、飲む。

これではアル症の飲み方と変わらないかもしれませんよね。

つまりは、飲むための言い訳、免罪符が、食と酒の結びつきというレトリックだったのかもしれません。

僕たち、アル症者は、逆に真の味覚の楽しさを探すことができるかもしれません。
ホンマに刺身は美味いのか、なんたらのなんたら、なんたらソースは、美味いのか。
焼肉やBBQの美味さってなんなのか。

新たな食体験ができるかもしれません、この秋。

でも食べ過ぎには気をつけないと。

というわけで、皆さんも僕も、今日も(明日も)ご機嫌さんで、美味しさをかみしめながら
LWOA Life Without Alcohol 断酒ライフ、継続しましょう。