僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

仲間に任せればいいんだ

飲酒歴40年、断酒歴7年と5カ月、不良初期高齢者、リスボン、レベル64。

本日もリスボンの、初心に還ろう・ノープランブログ、ご訪問ありがとうございます。

 

僕の研究活動の柱の一つに、

知的障害者を対象としたアート・ワークショップの開発があります。

僕の二つの専門領域、芸術学と障害学を橋渡しする活動であり、

音楽と並ぶ、僕の人生の二本柱の一つです。

 

この4月から、ようやく新型コロナウィルス感染拡大防止のヒステリックな波が収まり、

部分的ではありますが、この活動を再開することができています。

今日は、月に一回のワークショップの日でした。

 

今年は、キャンプ用の紙皿や紙コップを素材にした、アート遊びをテーマにしています。

知的障害者を対象としたものつくり遊びの立案で注意しなければならないことはいくつかあります。

 

まず第一に安全性。

特に鋏をはじめとする刃物の使用に関しては、注意が必要です。

ただしただ安全であればよい、安全のためにすべてのリスクを避けるというのも、

本来の福祉の精神から外れている思い、

例えば、注意しながら鋏を使える人には、大いに鋏で紙を切ることを楽しんでもらえばいいと思います。

 

次に、作業内容において、ムチャな要求をしていないかどうか。

ここでも簡単であればよいというものではなく、

適度な難度も楽しさの要因の一つにもなることを考慮する必要があります。

 

そして本当にみんなが楽しめるものつくり遊びになるかどうか。

この場合のみんなというのは、

障害者施設の利用者、つまり知的障害者本人と、

施設のスタッフの両者です。

 

ワークショップの内容を考え、素材等を準備するのが僕の役割ですが、

正直言いまして、実際に考案したワークショップが、

先にふれた3つの条件を満足できているかどうか、

常に不安でいっぱいです。

僕の勝手な思い込みが空回りしてはいないか、

本当にみんなに充実した時間を提供できるのかどうか、

やってみなければわかりません。

 

今日は、大量の紙コップと紙皿、そして大きさの異なるクリップを持ち込みました。

コップや紙皿にクリップをつけてもらい、

それらをひも状のものに括りつけ、部屋のあちこちに吊るして、

いつもとは違う部屋の風景の変化を楽しんでもらおうというアイデアでした。

 

最初に紙皿とクリップの組み合わせ方と、紐への括り付け方の一例をデモンストレーションし、

後は、「みんなでいろいろ試してみてね」と、半ば無責任に投げかけてみました。

 

今日のワークショップに参加してくれた仲間たちの知能年齢や、肢体行動自由度は様々です。

スタッフと一緒に行動することを好む人もいれば、

黙々と自らの独自の世界に入り込むことができる仲間もいます。

ホンマにいろいろな仲間がいました。

 

そして僕にとって最高に時間が訪れました。

そんな様ざまな力をもった仲間たちが、

それぞれのできること(場合によってはできないこと)に取り組みながら、

作業の進展とともに、最高の笑顔を見せながら、

取り組みの成果を楽しそうに、そして自慢顔で僕に見せてくれました。

 

この人たちにはどんなことができるんだろうという、一見、思いやりに見える忖度は、

実は不要でした。

僕たち平均者は、すべての事柄を僕たちを基準にして考えてしまいます。

でもその感じ方こそが、思い上がりに外ならないのです。

僕たち平均者は、ただ単に多数者なだけで、

標準的な能力の持ち主でもなんでもありません。

 

僕は障害学という学術領域と出会うことで、

人間存在の多様性の大事さを知り、

社会的な常識とされている感覚に隠れていた傲慢な思い上がりを知りました。

障害とともに暮らす仲間たちと時間を共有することで、

この感覚をさらに強く確かめることができます。

 

僕自身がアルコール使用障害当事者になったことで、

少数者を少数者として扱ってしまいがちな常識の落とし穴を確信できました。

 

現場に行って仲間たちと時間を共有すること、

こんなに愉快でエキサイティングな時間は、そうはありません。

贅沢な人生に戻れたことを神様に感謝します。