僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

美大におけるイラストの隆盛を憂う

飲酒歴40年、断酒歴8年、不良初期高齢者、リスボン、レベル65。

本日もリスボンの、今日は業界話・ノープラン・ブログ、ご訪問ありがとうございます。

 

この頃、折に触れて報告していますように、

あと2カ月足らずで、定年を迎えます。

今の大学に専任教員として採用されてから31年、

それ以前の非常勤講師時代を含めると、ほぼ40年間、

美大の教師を勤めてきました。

 

この40年間の間に、大学の在り方も変わりましたし、

当然のことですが、美大の在り方も大きく変化しました。

一応、職業人としての僕の半生も、その変化の真っただ中で揺さぶられ続けました。

 

今日は、勤め先の美大の卒業制作展を観てまいりました。

明後日の日曜日に会場詰め当番を勤めるので、もう一度、行くことになりますが、

少なくとも今日は、業務や時間の縛りのない中で、

自由かつゆっくりと学生たちの作品を見てまいりました。

 

基本的に若者たちの作品を観ることは楽しいです。

 

出品している学生諸君の名前と顔がすべて一致するわけではありません。

ましてや、今年の4年生たちは、

新型コロナウィルス感染拡大の中で大学に入学し、勉強してきた若者たちです。

彼女・彼らが1年生、2年生の時は、リアルな教室での授業よりも、

オンラインでの関りの方が多かった。

 

それでも半数くらいの学生たちは、顔と名前が一致します。

彼女たちの作品を見ると、

なるほど、この若者は、自分の専門領域の学習では、

こういうことに情熱を燃やしていたんかと、改めて感心させられます。

 

今日も作品のそばに控えていた作者本人と、

作品をめぐって楽しいトークを交わすことができました。

 

ただし僕が作関心をもち、そして作者である学生本人と話をする作品は、

そのジャンルに著しい偏りがあります。

 

僕の勤務している大学だけではなく、恐らく日本中の美大に当てはまる傾向だと思われますが、

最近の美大の若者たちの学習志向は、イラストレーションやマンガといった、

どちらかといえばポップで軽く、エンターテインメント性の強い分野に偏りがちです。

僕の勤める大学は日本の私立美大の中でも、いち早くイラストレーションの専門学科を設立しました。

現在でも学生の半数ほどが、イラストレーションを専攻しています。

 

今日は楽しく学生諸氏の作品を観てきたと書きましたが、

実は少しばかり盛った言い方です。

というのも僕は、僕の勤務先の大学の、

イラストレーション専攻の学生たちの作品に対しては、

全てという訳ではありませんが、どうにも心が動かされないのです。

 

いわゆる少女キャラクターを中心とした作品が少なからずあります。

しかし僕には、どのキャラクターデザインも、同じようにしか見えません。

マンガ形式の作品も少なくありませんが、

それらにおいても、どの作者の作画も、同じように見えて仕方がありません。

CG やアニメーションの作品もありますが、

こちらも同様に、どっかで見たことがあるといった、既視感しか感じられません。

 

 

どうも僕は、イラストレーションに対するアンテナの精度が低いようです。

あるいは、イラストレーションを専攻している若者たちに、独創性に対する意欲が不足しているのか。

そしてもう一つ言えば、そのような若者たちを指導する教員たちに問題があるのか。

 

私立大学にとって学生の確保は、何にも増して重要な優先事項です。

極論といえば極論ですが、

その結果、多くの若者たちが関心を抱きやすそうに見えるイラストレーションという領域が、

いわば学生確保というビジネスの切り札になりがちです。

落書き程度のお絵かきにしか関心のない若者たちを集めて、

その殻を突き破らせることができず、4年目を迎えさせてしまう、

何か、そんな構図が見えてきてしまうのです。

 

30年間にわたる己の飯のタネの源泉についてディスってしまうのは、

人間としてマズイのかもしれません。

僕が自らの勤め先の大学の一部の学生たちの作品に興味をもてないのは、

そんなややこしい構造が隠されて?いるからかもしれません。

 

僕の感性が錆びてしまって、世の中の流れについていけてないのか、

それともアートの世界でも、良くも悪くも軽さがのさばるようになっているのか、

でも僕は、僕の感性で語ることしかできません。

レベル65の厨二病は、そう簡単には方針転換はできないようです。