僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

スライドに感謝とさよなら、意外な教え子との再会にも感謝

飲酒歴40年、断酒歴8年と1カ月、不良初期高齢者、リスボン、レベル65。

本日もリスボンの、これも人生の振り返り・ノープラン・ブログ、ご訪問ありがとうございます。

 

今日の午前中は、僕がインストラクターを務める、3回目のヴォーカル・レッスンでした。

生徒さんは、僕よりも人生経験の豊かなご婦人、

少しばかり太めの声で朗々とお歌いになるジャズ愛好家の方です。

今日は、ジャズのスタンダード中のスタンダード、

酒とバラの日々」 "The Days of Wine and Roses" のお稽古をお付けいたしました。

 

リズムの感じ方と英語詩の発音のちょっとしたコツをお伝えしたところ、

1時間強のレッスンで、ええ感じのスイング感を実現してくださいました。

音楽の楽しみ方を一部なりとも共有していただけたこと、

これも音楽活動の楽しさの一つだと確信しました。

 

昼からは、また大学の研究室の後片付け業務、

今日はスケジュールの関係で2時間ほど、がんばりました(?)。

 

今日の宝物探しの成果は、かつて授業で必ず使用していたスライドの数々です。

 

僕たち、芸術学系の教師は、考察の対象とする芸術作品について、

授業内で学生に提示する必要があります。

現在は、パワーポイントを始めとする、

コンピューターのプレゼンテーション・ソフトを利用しますが、

かつて僕たちは、ポジフィルムを自ら作成し、そのスライドを教室内で映写していました。

この授業用スライド、僕たち、美術史系の教師にとっては、

もっとも大事な商売道具の一つであり、

まさに職業上の命といってもよいものです。

 

本棚の奥から出てきた授業用スライド、さてどうしたものかと、ふと手を止めて考えました。

大事に取っておく、それも選択肢の一つでしょう。

あるいは、マストの選択肢といってもいいかもしれません。

 

でも僕は、あえて廃棄することにしました。

一枚、一枚、感謝の気もちを込めながら、廃棄する、

その方が僕らしい区切りのつけ方だと思ったからです。

僕の前半生の大事な証拠だからこそ、一番確実な保管庫である、記憶の中に閉じ込める、

物理的な整理の苦手の僕にとってそれこそがふさわしいと考えました。

本当に一枚、一枚に、ありがとうございましたと伝えながら、

廃棄しました。

 

 

3時過ぎから、同じく今年で退任する、映像を専門とする同僚の退任記念の展覧会を見てきました。

学内にあるギャラリーの大きな壁面に映写された彼の作品をじっくり見ていると、

僕の隣に小柄な女性がやってきました。

 

ギャラリーの隣室に、その同僚が設えた談話の席があり、

明るいそちらの部屋に移動すると、僕の隣にいた女性もやってきて、

彼女がかつての教え子であることが分かりました。

 

僕の英語の授業を履修していた彼女は、

毎回、真面目に出席していましたが、とにかく声が小さかった。

声が小さいだけではなく、コミュニケーションそのものを拒否しているような感じでした。

 

今日、偶然再会できた彼女は、声の小ささは相変わらずでした。

というか、声の小ささに磨きがかかっていました。

でも、一生懸命僕に話しかけてくれました。

彼女の声が小さいことを知っていた僕は、

彼女の声をしっかりと聴くために、彼女の顔に僕の耳を近づけました。

事情を知らないと、少しばかり怪しい関係に映ったかもしれないそんな位置関係の中で、

彼女は現況を始め、いろいろなことを語ってくれました。

 

彼女の声が小さいのは、恐らく何らかの精神的な特性が関係していると思われます。

卒業後、社会人としていろいろなことを経験したに違いない彼女は、

そんな特性とともに暮らしながら、

学生の頃とは明らかに異なるパーソナリティーを獲得していたようです。

 

こんな風に成長していった教え子で会った若者と再会できること、

これも僕たち、教師という職業の、最高のお土産の一つです。

 

今日も厚かましく喜びを感じながら、断酒ライフを継続していきます。