僕のワンノートサンバ

断酒ライフを送る元大学教師にしてジャズ・ピアニスト、ヴォーカリスト

専門家としての不安 作品の展示という専門技能

飲酒歴40年、断酒歴7年と9カ月、不良初期高齢者、リスボン、レベル64。

本日もリスボンの、ちょっと専門的なお話・ノープランブログ、ご訪問ありがとうございます。

 

ここ数年、11月から12月にかけて、非常にやりがいのある仕事を任されています。

滋賀県に何らかの縁のある、障害とともに暮らしている人を対象とした公募の展覧会、

「ぴかっtoアート」展の展示計画設計並びに実施です。

 

 

障害とともに暮らす人びとの芸術表現活動に関りをもつようになって十数年たちます。

障害者のための施設でのワークショップや、欧米の研究者たちの理論研究を通じて、

僕が取り組んできた、最も重要な活動です。

そして「ぴかっtoアート」展の展示計画設計と実施は、

それらの活動の核の一つといっていい仕事です。

今年もその時期がやってきました。

今日はその実質的なスタートアップともいうべき、

実際の入選作品そのものの確認に行ってきました。

 

作品の実際のサイズ感を確認し、

さらに実際の展示の可能性や問題点について検討してきました。

実際の展示計画は、展覧会場に作品を搬入してからでないと決められませんが、

多くの作品のアピールポイントを確認する、楽しい作業でした。

 

しかし中には、問題を抱えた出品予定作品もあります。

今年も1点、悩ましい作品がありました。

 

作品出品規定では、作品は額装等を施し、

壁面に展示するためのヒートンやチェーン等を完備したうえで、

搬入してもらうことになっています。

 

しかし問題となりそうなその1点は、

ただの紙ぺらのままです。

展示方法の支持もなければ、展示のための装備もされていません。

 

展覧会事務局でもその点が気になったようで、

出品者が通っている施設の担当職員の方に確認したそうです。

先方のご返事は、展示法についてはこちらに一任するということでした。

壁面に画びょうで止めてもらってもいいとまで言っていたそうです。

 

困ったことになりました。

規定を厳格に守るのであれば、出展を拒否すべきところです。

しかし障害とともに暮らしている作者の思いが込められたであろう作品を、

単にルールに従っていないからと門前払いするのも、やや気が引けます。

かと言って、こちらから展示方法を提案するのも、

他の施設との公平性や、次年度以降のことを考えると、

簡単に取っていい選択肢ではありません。

 

恐らく問題の根底には、

福祉関係の専門職の皆さんは芸術関係の専門家ではないという、

とてつもなく当然の事実があります。

 

僕たち、美術関係の専門家にとって作品とは、

展示されることを前提として制作されるものであり、

展示のための造作や工夫を含めて作品です。

 

しかし美術を専門とされない方、福祉関係の専門家の方々にとっては、

作品とは、作品本体の内側で完成するものであり、

展示計画やその実施が作品にとって致命的な意味をもつことについては、

ご存じないことが圧倒的に多いようです。

 

さてどうしたものでしょうか。

大学で研究職についている専門家として、

少し厳しめのアドバイスをお伝えに行くべきでしょうか。

恐らく、そのプロセスを避けるべきではないでしょうね。

 

正直申し上げて、気が重い部分もあります。

しかし僕にとってとても大事な仕事の一つとしての展覧会の展示計画作成、

中途半端に妥協すべきではないでしょう。

気が重たいのですが、今週中にでも、

出品者の通われている施設の担当者の方を訪ねてみようと思います。

生き直しの大事な仕事です。